タウPETまとめ
投稿日: 2025/3/21
タウとタウPET
- タウたんぱく質はMAPT遺伝子(染色体17)によりコード。
- 微小管の安定化に関与し、神経細胞に多く存在するが、アストロサイトやオリゴデンドロサイトにも微小ながら存在する。
- タウ自体は高い可溶性を示すが、過剰リン酸化により不溶性の線維となり、神経毒性を示す。
- このようなタウ病変はタウオパチー(AD、PSP、CBD、Pick病など)の病理学的特徴。
- 近年、PETと専用リガンドにより、生体内のタウ病変が可視化可能になっている。
I.タウPETリガンドの開発の歴史
- 1990年代:最初のタウPETリガンド 18F–FDDNP が登場。
- タウ選択性が低く、現在は使われていない(タウPETとはみなされない)。
- 2013年以降:第一世代リガンドの登場
- Flortaucipir(FTP, AV1451, T807)
- 11C–PBB3
- 18F–THKシリーズ(THK-5351, 5117, 5105, 523)
- 近年:第二世代リガンドが開発
- 18F–MK–6240, 18F–PI–2620, 18F–PM–PBB3(APN1607)
- 第一世代よりも高コントラスト
II.タウPETリガンドの特性と差異
- タウたんぱくには6種のアイソフォームがある。
- 微小管との結合に関わる繰り返し配列で、3リピート(3R)型と4リピート(4R)型に分類。
- 疾患によってタウ病変を構成するアイソフォームが異なり、それがタウ病変の立体構造の違いや、リガンドごとのタウ病変に対する結合親和性に影響している。
- すなわちタウPETリガンドの種類によって、脳内タウ病変への結合親和性が異なる。
- 例えばFlortaucipir はADの評価には有効だが、非AD性タウオパチーには親和性が低い。
III.健常高齢者およびAlzheimer病のタウPET研究
- 健常高齢者でも側頭葉内側にタウ蓄積(PART)が見られる。
- 蓄積は近時記憶の能力と相関。
- ADスペクトラムではMCIの時期から側頭葉にタウ集積が出現し、病期の進行に伴いタウの分布範囲と集積量も拡大する。そしてタウの分布は病理の進行様式と一致する。
- 臨床的多様性に応じた集積パターンも存在する。
IV.非Alzheimer病性タウオパチーのタウPET研究
- 多くのリガンドはADの可視化に適しているが、非AD性タウオパチーを可視化できるPETリガンドは少ない。
- 11C–PBB3 と 18F–PM–PBB3 は非AD性タウ病変にも有効であり、PSP、CBD、Pick病などで脳内タウ病変を可視化できる。
- 剖検による病理学的検討でも、高集積部位に一致して脳内タウ病変が認められた。
- アミロイドPETとタウPETを併用することで生前に背景病理をある程度推定することが可能。
- 基本的にタウ集積と脳萎縮・神経症状は一致し、集積量と重症度は相関。
- 18F–PM–PBB3 は特に高コントラストで個別診断も可能。
おわりに:今後の展望
- タウPETは精神神経疾患の病態解明に大きく貢献する。
- タウを標的とした創薬研究が進行中である。
- AD治療薬開発において、アミロイドPETと並ぶ基盤技術となる。
- タウPETにより適切な病期の被験者を選択した治験が進行中。
- 日本では臨床使用未承認だが、18F–PM–PBB3による試験が進行中。
- 近い将来、臨床現場での導入が期待される。
参考文献
- 島田 斉 「ゼロから学んで最先端まで理解するタウPETイメージング」 神経治療 39:598-602, 2022